Bishop、Mammothの岩場

ルート395から見える山々は厳かで美しかった。

ロサンゼルスでレンタカーしたフォードのコンパクトカーを運転して、ビショップへゆく。

アメリカ車とはいえ、日本でもよく見かけるサイズなので、三人分の荷物も含めると車はパンパンになった。ビショップに近づくにつれて、寂寥とした荒野のなかをひた走る。

最初は楽しく運転していたけれど、時差ボケと疲労が相まって、運転を代わってもらったら、深い眠りについてしまった。気が付いたら、ビショップについていた。

 先輩が昨年泊まったというモーテルに滞在することにした。翌日、時差ボケ中ということもあり、夜が明けるころにはすっかり目が覚める。ビショップという町を知りたいという気持ちがあり、ジョギングをしながら町を散策することにした。

 ビショップから車で20分程のところにある、Pratt's Crack Gullyという岩場へ出かけた。町をでると、美しい峰々が目の前に見える。車を運転しながら何ともいえぬ爽快感に包まれた。岩場には10時頃到着。日差しが強く暑かったが、次第に陰ってきて、快適に登ることが出来た。スポートと、クラックが混在する岩場だ。今回はスポート中心に登った。しかし、アメリカに来て早々体調を崩してしまい、垂壁の花崗岩とはいえ5.11cで苦労する始末。それでも、楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pratt's Crack Gully


翌日、マンモスエリアのGong Show Cragへ。標高が高い(2500m程)のと、午後1時になると日陰になるので、快適に登れる。ここの岩場もフェイスとクラックがあるが、フェイスはグラウンドアップや、トップダウンで拓かれたルートが混在しているらしい。印象的だった「Switch Hitter(5.10d)」は、グラインドアップかと思ったら、トポ見たらトップダウンのルートであった。しかし、奮闘的で素晴らしいルートだった。Wages of Skin(5.10c)は、右上がりのフィンガークラックが印象的なルート。このルートでテンションをかけてしまう。これはとてもショックだった。車に戻ると大量の蚊が待っていて沢山刺されてしまった。

 ビショップでのクライミング3日目は、Gong Show Cragを通り過ぎた先にあるPatricia Bowlという岩場へ行く。ビショップから車でおよそ40分から50分走らせた後、アプローチを40分ほど歩く。標高は高く3000m程あり北面の岩場であるので、適期は7月から9月までと、やや季節の限られた岩場だと思う。最初に取りついた5.9のルートが日本の本チャンのようなそれであった。アルパイン的雰囲気な岩壁のなかではあるが、五つ星の一際美しいクラック、「Sons of Liberty(5.10d)」を登る。核心はフェイスの様な登りだが、上部のシンハンドは快適なジャミングだった。前日の失態を挽回するようにフラッシュすることが出来た。他のルートも見ると、素晴らしいルートがたくさんあることが分かった。また来たいと思わせてくれる岩場であった。

 4日目は、再びPratt's Crack Gullyへ。関東周辺の岩場でよく見かけるような、岩場の混雑具合だった。どのルートにもロープがすだれのように垂れ下がっていた。前回取りついた5.10bの2P目に派生している、5.10dのフェイスと、5.10cのクラックを登り、続いて、4Pのマルチピッチ「Rites of Spring(5.10d)」を登る。先輩が偶数ピッチ、奇数ピッチは私がリードする。どのピッチも個性的で楽しいクライミングが楽しめた。下降していると、ぱらぱらと雨が降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Gong Show Crag

Patricia Bowl  (先輩提供)


 一日休養を挟んで、Cardinal Pinnacleへ行ってきた。ビショップから西に続く州道168号線を走り、ボルダリングで有名なバターミルクを通り過ぎた先にある。車で30分ほど。車を駐車してから30分ガレ場を登る。途中で水を車に忘れてきたことに気づくがあとの祭りだ。標高は高く西面なので日が当たらず結構寒いが、West Face(5.10a 4P)の取りつきに着くころには身体は温まってくれた。露出感のある快適なクライミングを楽しむことが出来た。頂上からThe Prow(5.12b)に沿って懸垂下降することになる。トポには核心のピッチ(12b)をトップロープで登れるよと書いてあるので、折角だから登ってみる。クラック自体はそこまで難しくないが、プロテクションのとれなさそうなフェイスが核心だ。楽しんだ後、再び懸垂下降して取りつきに戻る。クライマーが沢山集っていた。車に乗ってしばらくすると雨が降ってくる。早出した甲斐があり、充実した一日だった。

Cardinal Pinnacle

The Prow(5.12b)の核心ピッチで遊ぶ。


Yosemite・Tuolumneの岩場

 ビショップを離れ、Yosemite・Tuolumneに向かう。ルート395を北上し、一時間強でヨセミテ東側の麓の町であるLee Viningに到着する。ここからYosemite方面へ。ひたすら上り坂を上がっていき、国立公園のゲートに到着する。ここで渋滞が発生しているが、フリーパスを持っている人は優先的に入場している。我々もフリーパスを購入した。ハーフドームを見られるOlmsted Pointを少し過ぎた、ショートルートの岩場であるOlmsted Canyonで登る。ここは小ぶりのルートが多い。どのルートも10m位であろうか。湯河原幕岩で登っているかのような気軽さで取りつける。最後に登ったTide Line(5.11a) 。Tuolumneで素晴らしいルートの一つと書いてある。このルートをオンサイト出来たのはとても嬉しかった。クレーンフラットキャンプ場に向かう。Bishopで知り合ったS夫妻のいるキャンプ場にお邪魔することに。翌日は疲れていたこともありレストにし、Yosemite valleyに遊びに行った。Valleyは暑かった。折角の晴れを休養にあてたのは良かったが、翌日から3日間、Yosemiteは悪天に包まれるのだった。

 レスト明けの翌日、トーラミメドウにある岩場に登りに行く。キャンプ場は曇り空だったが、車を進めれば進めるほど怪しい雲がひしめいていた。駐車場に車をとめて歩き出すと、ぽつぽつと雨が降ってくる。雷も鳴っている。ピーター・クロフトがオンサイトフリーソロをしたという5.12aや、面白そうな5.11cを眺めるだけで帰ることにした。帰り際、ビジターセンターで天気予報を見ると、2,3日雨マークだった。すでに何日分かキャンプ場料金を支払ったあとだったので、おとなしく悪天をやり過ごすことにした。

Tide Line(5.11a)


Cookie Cliff

 翌日は終日雨が降り続いた。さらに翌日、まだ雨は降っていたが気晴らしを兼ねてヨセミテバレーに行く。談話室で過ごしていると雨がやんでくれたので、Cookie Cliffに登りに行くことに。ここ二日間トーラミでとても寒い思いをしていたが、千メートル標高の低いバレーもこの時期にしては涼しかった。アップを済ませ、ふと隣にあるRed Zinger(5.11d)を眺める。素晴らしいクライミングが出来るのではないか?という気持ちが湧いてきて、このルートを登りたくなりやってみることにした。核心部分の読みはばっちりだった。かなり消耗したがオンサイトすることが出来た。クラックの5.11dのオンサイトは初めてだったので、3日ぶりにクライミング出来たことも相まって嬉しかった。翌日もCookie Cliffで登る。前日と違い大分気温が高い。しかし、色々な向きにルートがあるので、日陰を選び無理なく登ることが出来た。結局今回のツアーでは、バレーで登るのはこれで最後となってしまったが、またCookie Cliffに来たら、まだ登っていないルートをやりたい。

Phobos/Deimos Cliff 

車をダートの路肩駐車場に置いてから、急な登りを30分ほど歩く。

この日の計画は、Blues Riff(5.11b 3P)というルートを2Pまで登り、懸垂下降。そして、Phobos(5.9 3P)を登るという二段構えの予定であった。Blues Riffは、2Pとも私がリード担当である。このルート、トーラミのベストクラックの一つであるとガイドブックに絶賛されている。1P目は5.10c。へんな位置にあるボルトに一生懸命背伸びをしてクリップする。豪快にハング越えをすると、すぐにビレイ点がある。

2P目が核心のピッチ。出だしがフィンガークラックで如何にも難しそうだ。きっとこの短く細いクラックに核心の難しさが詰まっているのだろうと思った。緊張しつつ登りだす。核心手前で一休みしながら、核心のムーブを頭の中で組み立てる。エイリアンの黄色を決めて一気に突っ込む。幸い読みは当たっていた。そして、後半の僅かに前傾したハンドクラックとレイバックのクライミングは、ヨセミテらしく私を奮闘させてくれた。意地でも落ちられなかった。無事終了点につきフォローのビレイに入ると、何とも言えぬ至福なひと時を味わうことが出来た。60mロープ二本で取り付きまで懸垂下降。結局Phobosは、登っているパーティーが時間かかりそうだったので登るのを断念した。次回におあずけとなった。

一旦ビショップに降りて休養してから、再びトーラミへ。国立公園ゲートの手前にあるタイオガレイクキャンプ場のサイトを押さえてから(親切な方が、一日早く切り上げるからと譲ってくれた)、再びPhobos/Deimos Cliffへ。先日登れなかったPhobos(5.9 3P)を登る。Phobosも少しオーバーハングしており、ワイドハンドぎみで奮闘的なルートだった。大きなアメリカ人にはちょうどよいサイズかもしれないが・・・。クラックの5.9、5.10aが精一杯という人は、キャメロット#4、#5を2セット持参した方がよいかなとも思う。岩壁を登りきって、徒歩で下降する。

続いて、私が登りたいと思ったショートルート、「Gold finger(5.12a)」を日が陰るのを待って登る。核心はどうやら右上がりのフィンガークラックの部分のようだが、ルートは非常に長くあなどれない。一番使うであろうエイリアンの赤、黄色、緑は3セット持っていった。ナッツも上手く使いながら核心に突入する。核心を越えることが出来てからも、奮闘的な消耗戦が繰り広げられる。トポには5.10と記載がある比較的簡単なクライミングであったが、体力とカムがどんどん減っていく。ほとんどカムを使い果たした頃、終了点がみえた。

オンサイト出来てしまった。5.12台のオンサイトは初めてだった。しかし、初めてこのルートを見た時に、よいクライミングが出来るのではないか・・・?という予感あった。70mロープでは下降しきれず足りなかった。ロープを継ぎ足してもらい、下降した。

その後、先輩がBlues Riff(5.11b 3P)をトライするので、私は今度フォローで登る。先程のクライミングで出し尽くしたようで、精彩を欠いた、というより必死のクライミングだった。先輩は完登した。先日同様2P登り懸垂下降した。

Blues Riff(5.11b 3P)の核心ピッチを登る。

Gold finger(5.12a)


マルチピッチクライミング

【OZ(5.10d 4P)~Hobbit Book(5.7R 4P)】

クライミングツアー終盤戦、トーラミとハイシエラのマルチピッチルートを登ることに目標を定めた。まずは、Drug Domeの「OZ(5.10d 4P)」を登り、Mariuolimne Domeの「Hobbit Book(5.7R 4P)」を継続して登るというもの。広めのダートの駐車場に車を置いてから、徒歩20分程度。トポには10分と書いてある。OZはすべて私がリードしたが、全てのピッチが個性的で素晴らしいクライミングをすることが出来た。2P目のフェイスクライミングはムーブを自分で組み立てるのが面白かったし、ハイライトの3P目の美しいコーナークラックは長くて持久力的なクライミングを楽しめた。バリエーションのGram Traverseは行かず、通常のピッチから終了点まで抜けた。そのままMariuolimne Domeまで歩いて移動し、Hobbit Bookの取りつきまで行く。基部のトラバースはちょっとしたクライミングも交えつつで、ちょっと怖かった。

Hobbit Bookはすべてのピッチで先輩リード。グレードの通りクライミング自体はそこまで難しくない。しかし、3P目のフェイスにおいてはボルトが一本しかなく、20m近くランナウトする。長く、困難を伴うアプローチ、ランナウトを含む登攀と、アルパイン的要素が強い。(トポにもそのようなことが書いてある。)でもOZから繋げると充実して楽しいクライミングが出来ると思う。この二本のルートは北面に位置するので、登攀中日が当たらず寒い思いをした。

OZ(5.10d 4P)

Hobbit Book(5.7R 4P)


【Third Pillar of Dana】

この岩壁を登るため、タイオガレイクキャンプ場に引っ越す。湖の眺めが素晴らしい場所であるうえに、キャンプ場自体も小さく無事確保出来るか心配だった。しかし、親切な老夫婦が一日早く切り上げるからとキャンプサイトを譲ってくれた。早朝起きるとひどい夜露でテントはびっしょり、車のフロントガラスは凍っていた。車でタイオガレイク駐車場に移動して3時間歩くとThird Pillar of Danaの頂上に着く。そこから取りつきまで下る。正しい道を通ればよかったが、間違った道を進んでしまい余計に時間をかけてしまった。1時間ほどで取りつきにつく。ノーマルスタートと、ダイレクトスタートと、二つ取り付きがあるが、1ピッチ多く登ることのできるダイレクトスタートから登ることにした。1Pと2Pは岩塔が次から次へと重なったかのような形状をしていて、クライミングはそこまで難しくないが、逆にどこでも登れそうな感じがするので、ルートファインディングが求められる。3Pからすっきりとした岩壁となり、面白くなってくる。核心のピッチを含む後半ピッチは先輩がリード担当。トポに「分離したフレーク」と書いてあるように、もげたら大惨事となりそうな巨大フレークにジャミングして登ることもあった。4P、5.10cのバリエーションを登ることにしたが、プロテクションは乏しいなかでのスメアリングを駆使する絶妙なレイバックだ。これはリードしなくてよかったと思った。最終ピッチはスーパートポ「ハイシエラクライミング」の表紙になっているほど、素晴らしいピッチ。最後にあるので、上から懸垂下降してここだけトライしているずるい人がいた。

トポによると、このルートはシーズン中毎日誰かしらトライされているようだ。この日は例のずるいパーティーも含めると合計3パーティー。アプローチの労力を考えると、すごい人気ルートだと思う。最終ピッチを登り終わってひょっこり顔を出すと凄まじい風が吹き荒れていた。寒いので、そそくさと帰ることにした。前日のクライミングによる身体の疲労を引きずりながらの登攀だったが、帰幕して終わってみると充実して満足感だけが残った。

また、今回のツアーで絶対に登っておきたいルートの一本だったので、一仕事終えたというホッとした気分だった。

Third Pillar of Danaの全景


Incredible Hulk

 ツアーも終盤になってきた。マンモスレイクのキャンプ場に引っ越す。町の中にキャンプ場がある。松林のなかのキャンプ場で、まるでヨセミテのようだ。ここを拠点にしてマンモスレイクから車で10分の岩場や、Owens Riner Gorgeの岩場へ登りに行った。

 マンモスレイクには3泊した。そして、いよいよ最終目標の岩壁である、Incredible Hulkへ向かう。Lee Viningを過ぎて、さらに北上し、Brilge Portへ。ここのレンジャーステーションでインクレディブル・ハルクを登るための許可証をもらう。そして、大通り沿いにある山道具屋でベースキャンプ用のベアーボックスを借りる。そして、Twin Lakeへ向かう。ここに車を置いて歩くのだが、一つ問題が発生。ヨセミテのようなフリーのベアーボックスがなく、必要のない食料を置く手段がない。(キャンパー用のベアーボックスはある。)なので、先輩がとあるキャンパーにお願いして食料を置かせてもらうことになった。

 インクレディブル・ハルクBCまでは3日分の食料や幕営道具やらを担いで4時間ほど。途中雨に降られしばしやり過ごしたが、すぐに止んでくれた。BC周辺は件の岩壁以外にも岩がたくさん。まるでパタゴニアにいるようだなあ・・・なんて思った。パタゴニア行ったことないけれども。

BCへのアプローチを行く (先輩提供)

インクレディブル・ハルクが見えてきた

(先輩提供)


【Red Dihedral(5.10b 13P)】

 5時30分に出発する。6時頃取りつき。3人で登るので、6Pまでは私リードで、後半は先輩がリードする作戦で登ることにした。早出したおかげで一番手を取ることが出来た。このルートの白眉は4P目のコーナークラックである。素晴らしいクラックだが、結構奮闘的なピッチだった。このあたりから強風にあいものすごく寒い。10ピッチ登ると頂上稜線に出る。よいペースで登ることが出来た。さらに3Pで山頂へ。トンネルを抜けると山頂への道だった・・・。すごく狭いチムニーです。簡単なクライミングで山頂につく。360°素晴らしい景色だった。下降はクライミングダウンして懸垂下降。コルに降りたらあとは歩いて下る。登っている時は終始寒かったが、ガリーの下降は暑いばかりだった。


【Positive Vibrations】

前日の登攀ではあまりにも寒かったので、ちょっと出発を後らせよう・・・としたら、取り付きに着いたら3番手になってしまった。後からぞくぞくとクライマーがアプローチを上がってきているので(結局我々より後ろに取りつく人はいなかったが)、壁の中で待つことになるが、登りだすことにした。先輩と2人で登るので、つるべで登る。奇数は先輩、偶数は私がリード担当する。このルートは3P目と6P目に5.11aのグレードがついており、核心のピッチとなる。が、待機する時間が長く、またこのルートも風が強く猛烈に寒い。6P目のクライミングは素晴らしかった。細いクラックをつなぎながら登る。眼下には登ってきた大岩壁が広がっている。8P目、10bだがとても長いピッチ。ランナウトしながら登るが、どんどんカムがなくなっていく。稜線が見える。ハンドジャムがバシバシ決まるクラックを登っていく。フィナーレを飾る素晴らしいピッチだった。登り終わると懸垂下降。70mロープ1本で下降出来るが、ぎりぎりのところもあって大変恐ろしい。13回下降してようやく地面に足をつけることが出来た。ちょっと仲良くなった2番手のスイスパーティーとお互いの健闘を称えあい、テントまで戻った。このルートは本当に素晴らしかったが、終わってみると一瞬に感じた。素晴らしい人との出会いは時に一瞬であるように、また素晴らしい登攀との出会いも一瞬だなと思った。

 

翌日、3時間かけてTwin Lakeに下山。Brilge Portで借りたベアーボックスを返却。395号を南下する。もうすっかり馴染んだビショップに到着。2時間滞在した後、出発。夕方頃本日の宿であるモハベに到着。翌日ロサンゼルス空港へ。

この辺から途端に風が強くなり、寒くなった。


このピッチは素晴らしかった。

仲良く岩壁で震え上がったスイスパーティーと(先輩提供)